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アナフィラキシー

皮膚に現れる赤みや痒みは、時に体の中で起きている重大なサイン(警告)です。特にアナフィラキシーは、皮膚・呼吸器・循環器など、複数の臓器にまたがって症状が連鎖する、生命に関わる病態です。

当院では、単に目に見える皮膚症状を抑えるだけでなく、内科的な全身管理の視点を持って診断・治療にあたっています。たかがアレルギーと見過ごさず、根本的な原因を特定し、エピペンの適切な使用や生活環境の調整を行うことで、不安のない健やかな毎日を取り戻していきましょう。

アナフィラキシーとは

 アレルギーの原因物質(アレルゲン)などが体内に入ることによって、複数の臓器や全身にアレルギー症状が表れ、命に危険が生じ得る過敏な反応が出ることをアナフィラキシーといいます。
複数の臓器とは、皮膚・粘膜・呼吸器・消化器・循環器・神経などを指します。
数分~数十分以内に全身に現れ、血圧の低下を伴い意識障害や失神などを引き起こし、場合によっては生命を脅かす危険な状態になることもあります。
この生命に危険な状態をアナフィラキシーショックといいます。日本におけるアナフィラキシーによる死亡者数は、近年年間60〜80名ほどで推移しており、2026年度の速報値(推計)でも約70名にのぼっています。原因の内訳としては、医薬品、蜂毒、食物が上位を占めています。

アナフィラキシーとの症状とは

 アナフィラキシーの症状はさまざまであり、その時の体調やアレルゲンの量によっても異なります。「複数が同時に」「急速に(数分〜数十分)」現れるのが最大の特徴です。

  主な症状 具体的なサイン
皮膚・粘膜
(約90%に発現)
かゆみ、発疹、腫れ 全身のじんましん、赤み(発赤)、まぶた・唇・舌の腫れ、口の中の違和感
呼吸器 咳、呼吸困難、喘鳴 喉の締め付け感、声枯れ、「ヒューヒュー・ゼーゼー」という呼吸音、鼻水
消化器 腹痛、吐き気、下痢 差し込むような激しい腹痛、繰り返し吐き続ける、急激な下痢
循環器 頻脈、血圧低下 顔色が青白くなる、脈が速くなる・弱くなる、手足が冷たくなる
神経・その他 意識障害、脱力感 しびれ、意識が朦朧とする、突然力が抜けて倒れ込む、失禁

以下の症状が一つでもあれば、生命を脅かす「アナフィラキシーショック」の危険があります。直ちに救急車を呼び、エピペンを処方されている場合は迷わず使用してください。

緊急性の高い症状 具体的な状態
意識の異常 呼びかけへの反応が鈍い、視線が合わない、意識を失う
呼吸の異常 喉が腫れて息ができない、激しい喘鳴(ヒューヒュー)が続く
循環の異常 ぐったりして歩けない・座れない、脈が触れにくい

アナフィラキシーを起こしやすい人は

 アナフィラキシーは、体質だけでなく過去の経験やその時の体調によってリスクが大きく変動します。

リスクが高い体質・既往歴としては以下の通りです。

  • アレルギー疾患の既往:食物アレルギー、喘息(特にコントロール不十分)、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、医薬品アレルギーなど。
  • 過去の症状経験:以前は軽症(蕁麻疹など)でも、次は重症化する可能性があります。
  • 特定の環境:ハチに刺された経験がある方、アレルゲンに触れる機会が多い職業(医療・調理従事者など)。

年齢・状態に関連する因子として、乳幼児、思春期・青年期、妊娠・出産前後、高齢者は、特に注意深く経過を見る必要があります。

重症化する要因としては服用中の薬剤が関係しています。特にβ遮断薬、ACE阻害薬(一部の血圧の薬)などは、治療薬の効果を弱めたり症状を悪化させたりすることがあります。

症状を増幅させる増悪因子として、以下の状態が重なると通常より激しい反応が出やすくなります。

  • 体調の変化:急性感染症(風邪など)、疲労、睡眠不足、精神的ストレス、月経前。
  • 行動・環境の変化:食後の運動、飲酒、入浴、旅行などの非日常的な活動。

アナフィラキシーの原因とは

原因物質(アレルゲン)が体内に入り、免疫系が過剰に反応することで発症します。原因は人によって異なり、発症までの時間が短いほど重症化しやすいという傾向があります。

原因物質別の特徴一覧

原因区分 主なアレルゲン 発症までの目安 特徴・注意点
食物
(原因の約35%)
卵、牛乳、小麦、ソバ、ピーナッツ、エビ・カニなど 30分〜1時間 最も頻度が高い原因です。消化・吸収を経て発症するため、他の原因より少し時間がかかる傾向があります。
医薬品
(原因の約20%)
抗菌薬、解熱鎮痛薬、造影剤、市販薬、局所麻酔薬など 30分以内 重症化しやすいのが特徴です。以前は安全に使えていた薬でも、突然発症することがあります。
昆虫
(原因の約20%)
ハチ(スズメバチ等)、アリ、ムカデなど 数分〜15分 毒が直接体内に入るため、発症が非常に早いです。2回目以降に刺された際に激しい反応が起こります。
その他 ラテックス、物理的刺激(運動、寒冷、日光など) 個人差あり ゴム製品や急激な温度変化、日光などが引き金になるケースもあります。

単独のアレルゲンだけでなく、特定の条件が重なることで発症する病態があります。

  • 食物依存性運動誘発アナフィラキシー
    特定の食品を食べただけでは無症状でも、その後に運動(階段、自転車、スポーツなど)をすることで発症します。食後30分〜4時間以内に起こることが多く、小麦や甲殻類が代表的です。
  • ラテックス–フルーツ症候群
    天然ゴム(ラテックス)アレルギーのある方の30〜50%は、クリ、バナナ、アボカド、キウイなどのフルーツでもアナフィラキシーを起こす可能性があります。
  • 口腔アレルギー症候群(OAS)
    花粉症の方が特定の果物や野菜を食べると、口や唇が腫れる病態です。稀に全身症状(アナフィラキシー)へ進行することがあります。

アナフィラキシーの検査・診断とは

当院では、再発を防ぐために何が引き金となったのかを特定し、お一人おひとりに合わせた対策を立てるための精密な診断・検査を行っています。

アナフィラキシーは進行が極めて早いため、緊急時は検査結果を待たずに、以下の状況から即座に診断・治療を開始します。

  • 詳細な問診:直前に「何を食べたか」「何に刺されたか」「何の薬を使ったか」などを確認します。
  • 症状の確認:皮膚・呼吸器・消化器・循環器のうち、2つ以上の臓器に症状が出ているか、または急激な血圧低下がある場合

症状が落ち着いた後に、原因物質(アレルゲン)を特定するための検査を行います。最も一般的なアレルギー検査で、血液中のアレルギーに関わる抗体を測定します。食物、昆虫、薬物、ラテックスなど多くの項目を一度に調べられます。

アナフィラキシーの治療とは

 治療は、重症度に応じて「現場での応急処置」と「医療機関での専門的治療」に分けられます。

  1. 現場での応急処置
    重篤な症状や急激な悪化が見られる場合は、アドレナリン(エピペン®)の筋肉注射が最優先です。
    エピペン®処方されている場合は、迷わず太ももの前外側に強く押し当てます(服の上からでも可)。
    119番通報をし、直ちに助けを呼び、アレルギーの可能性を伝えます。
    エピペン®がない場合は、症状に合わせ、抗アレルギー薬の内服や気管支拡張薬の吸入などで対応し、速やかに受診します。
  2. 医療機関での専門的治療
    病院では、全身状態をモニターしながら以下の処置を行います。アドレナリン筋肉注射で気道の腫れを抑制し、血圧を回復させます。呼吸困難がある場合には酸素を吸入し、必要に応じて気道を確保します。血圧低下(ショック状態)に対し、大量の点滴で循環を維持します。
  3. 治療後の経過観察(二相性反応への警戒)
    症状がいったん治まった数時間後に、再び症状が現れる二相性反応が起こることがあります(最大72時間以内)。アドレナリンを使用した場合は、数時間〜一晩程度の入院、または厳重な経過観察が必要です。

アドレナリン自己注射薬(エピペンⓇ)とは

エピペン®は、アナフィラキシー症状を一時的に緩和し、ショックを防ぐための緊急補助治療薬(ペン型自己注射製剤)です。医師の治療を受けるまでの命をつなぐ役割を果たします。

1. エピペン®の主な効果(アドレナリンの作用)

アドレナリンには即効性があり、以下の作用で致命的な症状を強力に抑えます。

  • 呼吸を楽にする:気管支を広げ、喉の腫れを鎮めます。
  • 血圧を上げる:血管を収縮させ、低下した血圧を上昇させます。
  • 心臓を助ける:心臓の働きを強め、全身への血流を維持します。

2. 使用すべきタイミング(一つでもあれば使用)

以下の症状が一つでもあれば、直ちに使用してください。

  使用すべき重篤なサイン
呼吸器 持続する強い咳、ゼーゼーする呼吸、声がかすれる、喉や胸の締め付け
消化器 繰り返す嘔吐、持続する激しい腹痛
全身状態 唇や爪が青白い、ぐったりしている、意識が朦朧とする、失禁

3. 正しい使い方のポイント

  • 打つ場所:必ず太ももの前外側に垂直に打ちます(服の上からでも可能)。お尻や腕は効果が遅れるため避けてください。
  • 保持:カチッと音がしてから、数秒間(3秒程度)そのまま押し当てます。
  • 使用後:効果は15〜20分で切れることがあります。症状が改善しても、必ず救急車で医療機関を受診してください。

アナフィラキシーは、いつどこで起こるかわからない、恐ろしい病態です。しかし、正しい知識を持ち、原因を特定し、万が一の備えを整えておくことで、そのリスクを最小限に抑えることができます。

一人で悩まず、まずは一度、当院にご相談ください。

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